第72回「社会を明るくする運動」北白川地域ミニ集会

日時:令和4年8月7日 14:30〜16:30
会場:北白川小学校ふれあいサロン
講師:澤田清人(左京区保護司会保護司)
題名:「学校は社会の縮図」
~しんどさを抱えながらも子どもたちは頑張っている~

❖講師略歴
1961年2月6日 京都市左京区北白川に生まれ

京都教育大学卒業後、京都市立洛東中学校教諭として着任(1984)され、京都市立弥栄中学校で教頭時代(2004~2005)に人権劇の取組がNHK教育TV(わくわく授業)、総合TV(人間ドキュメント)で紹介される。

2007年 京都教育大学大学院連合教職実践研究科「授業力高度化コース」講師
2009年 立命館大学非常勤講師「道徳教育の研究Ⅰ」担当
2010年 京都市立花山中学校校長
2015年 京都市立向島中学校校長
2017年 京都市立二条中学校校長
2021年 保護司拝命、左京地区に配属
2022年 京都産業大学教職課程教育センター職員 京都文教大学非常勤講師

 
司会高橋保護司あいさつ           澤田清人先生 講演

今回の講演にあたり、講師の前面に飛沫防止の透明シートを設置させていただきました。
コロナ禍ですので、マスク着用での講演が常となっていますが、講演内容から、講演中の表情も見ていただくことが重要と考えたための処置です。

❖講演依頼の経緯
5月29日(日)、元新洞小学校のふれあいサロン室において北白川、葵・下鴨地域が合同で「新任保護司を囲む座談会」を開催しました。昨年11月に北白川地域の保護司として就任された澤田清人先生は中学校の教諭から教頭、校長と歴任され、学校現場での豊富なご経験を座談会でお話しいただきました。これこそ北白川ミニ集会の講演テーマに相応しい!と考え、懇親会で依頼したところ即快諾をいただいた次第です。

① 中学生の姿 道徳の時間の様子から(スクリーン静止画像)
講演は、中学生の道徳(主題「前向きな生き方/教材:「新しい夏の始まり」「明日を生きる 3」日本文教出版)の授業の様子をスクリーンに映し、その視聴から始まりました。

② 教育実践の裏側
「児童虐待(性的虐待)」「保護者の薬物依存(逮捕歴有)」という2つの事例を紹介されました。ここでは、「虐待が発覚したきっかけ」「子どもに対する保護処置及び保護者への対応」「それ以降の経過」についての具体的な説明がありました。このような問題が起こった場合、過去の苦い経験(保護者による常軌を逸した抗議行動)から慎重論も出るなか、“学校長の責任として腹をくくらなければならない”、つまり学校として原理原則を遵守(警察・児童相談所への通報)する毅然とした対応が必要であることを強調されました。

逮捕された母親からの手紙(要旨)
ここでは、覚せい剤の再犯で逮捕された母親からの手紙がスクリーン画像で紹介されました。その内容は、「先生との約束を破って再び覚せい剤に手を出してしまったことへの謝罪」「逮捕されてから我が子が登校していないこと、裏切ったことによる我が子の心の中」「何があっても二度と手を出さないという決意」「担任の先生が毎日家に来て我が子に学校へ来ることように声をかけてもらっていることへの感謝」の言葉が綴られています。

③ 少年A君との出会い
たいへん荒れた中学校の校長に赴任された1年目のお話として、ここから以下の項目は主に講演録を抜粋(青文字)します。
「自宅待機させられていたA君に対して、始業式前に話をしてほしいと言われました。A君は明らかに教師に対する不信と敵対を露わにした目をしていました。それでA君と話をすることになるのですが、A君は自分の話なんか聴いてくれたり、叱ってくれた先生は一人もいなかったと言います。A君はそれから毎日校長室に来て話をするようになりました。A君はテニス部に所属していたことが幸いし、その腕前を褒めたところとても嬉しそうにしていました。A君を担当していた保護司の先生との連携があり、そのことが現在保護司としてここにいる理由です。」

④ 子どもたちの話を「聴く」
澤田先生はここで、「“聴く”というのはどこで聞くのだと思われますか?」と聴講者に質問があり、前に座っていた3人が当てられました。最初に当てられた髙橋保護司は“耳”、次に堀内保護司が“心”、その横の席にいた大学生は“目”と答えました。

澤田先生は「さすが3人とも正解です!耳と目と心を+と書いて「聴」という文字がつくられているのです。つまり、問題行動の子どもたちを拒否するのではなく、話を聴いて受け入れる、彼らを信じて見守る、ということが大切なのです」と述べられました。

「これが学校の新しい体制となりましたが、保護者からは授業中に教師と生徒が談笑しているとは何事か!という抗議が挙がりました。しかし、子どもたちを信じて見守ってほしい、今後はこちら側に立ってほしい、という思いを伝え、理解を得ることができました。」

⑤ 「率先垂範」の効果
「A君のいた学年は120人おり、そのうち20人ほどの“しんどい子”(エスケープ、校内の至る所での喫煙、遅刻の常習化、私服・ミニスカート、茶髪・金髪)がいました。私は毎日校内を見回って、問題点があれば教育委員会にも要望し環境整備を行いました。見回っている時に校舎の上から唾を吐きかけられたこともありました。これはさすがにきつかった。
しかし、この環境整備が意外な効果があり、私の指導方針に批判的だった教職員にも理解されるようになりました。率先垂範がいかに大切さであるかを示されたと思います。」

⑥ 学校祭・体育祭・卒業式
「“しんどい子”がいた学年ですが、学校祭の頃から合唱コンクール、体育祭の集団演技に子どもたちは頑張りました。卒業式では金髪・茶髪に染めていたヤンチャな子どもたち全員が制服を着て、黒髪に戻して出席、厳かで感動的な式典が挙行できました。初めての卒業式以来の感動で泣きながら卒業証書を渡しました。」

⑦ 「京都教師塾」でのレポート
この当時の中学3年生が現在教師を目指しており、その生徒が「京都教師塾(※1)」の塾生時代に作成したレポートがレジュメに掲載されていますので下記に引用します。

「澤田先生が〇〇中に来られる以前は,学年の生徒が大きく分かれており,問題行動を起こす生徒に対して恐怖心を抱き,関わらないようにしようという雰囲気がありました。また,先生方はヤンチャな生徒にかかりっきりで,真面目な生徒は放置されているのではないかと感じることもありました。
しかし,3年生になり,新しい体制になったことで,少しずつ学年の分断がなくなっていき,一つにまとまってきたことを実感しました。その理由としては,先生方が生徒の話に耳を傾け,糸を切らないように寄り添うことで,生徒と先生との間に信頼関係が築かれたこと,先生方がクラスや学校に生徒の居場所や出番をつくったことだと考えます。
その結果,これまでクラスや学校に来なかった生徒について知ることができ,生徒同士の仲間意識や信頼関係が築かれたと感じます。将来,教育現場に立った際には,聴くこと,糸を切らないこと,思いやりをもって子どもに接することを常に意識して取り組みます。」

⑧ 少年院からの手紙(講演途中で配布)

澤田先生は、「この手紙は、少年が施設内で一生懸命辞書をめくりながら書いたものです。少年院送致は教師として敗北だと思っていました。しかし、(更生保護の)関係機関にお世話になることでこれほど変われるのかと思いました。」という言葉で締めくくられました。

⑨ 「卒業式で歌えなくなった“旅立ちの日に” 」(前述とは別の中学校)
「コロナウイルス感染拡大防止措置」により卒業式前の大切な10日ほどが臨時休校になりました。その影響で子どもたちが卒業式に用意していた歌が歌えなくなったことから、登校最終日の前日、卒業生の一人が校長室にやって来て「明日、“旅立ちの日に”を歌わせてください」とお願いをしに来ました。私は「1日でみんなを組織できるのか?できたら許可しよう」と応えました。子どもたちは準備を整え、登校最終日に学年の先生たちを体育館に呼んで合唱を披露してくれました。」

(このシーンは動画として収録してあり、視聴した参加者は感動で込み上げてくる涙を抑えることができず、スクリーンに映る生徒たちに拍手を送るという場面がありました)

 

〜追記〜 「破り捨てられた作文」
講演の後半、「中学2年生女子の道徳授業後のワークシート」という、女子生徒のレポートがスクリーンで紹介されました。女子生徒が提出せず、破ってゴミ箱に捨てたものを担任の先生が拾ってセロテープで貼り直したものです。

そこには、女子生徒の母親が辿ってきた失敗の人生を我が子に伝え、そのDNAを終わらせてほしい、という我が子の未来までも絶望させる言葉が綴られていました。極めて難しい問題が孕んでいることを鑑み、ここでは割愛させていただきました。講師から再度お話しを伺う機会を設けたい、と考えています。

(※1)京都教師塾
平成18年(2006)9月に政令指定都市で初めて開講された教師を目指す人のための塾。「教師になろう」という高い志と情熱・行動にあふれる塾生が、大学で身に付けた専門的知識を基盤として、京都市の教員の熱意溢れる取組や本市教育の理念、市民ぐるみの教育実践に直接ふれ、教師に求められる資質や実践的指導力に磨きをかける場として、これまでに4,000名を超える塾生が京都市の教育実践を学び、京都市はもとより全国で活躍している。

❖先生を超える教師になりたい
質疑応答の時間に、最前列に座っていた澤田先生の中学時代の教え子(現在大阪教育大学)が参加者の方へ向き直り、澤田先生の想い出を語ったあと、「澤田先生を超える教師になりたいと思っています」という凛とした言葉に会場から大きな拍手が送られました。

❖参加者から寄せられた声
・「澤田先生の講演、大変興味深く拝聴しました。我が家にも中学生の子どもがおります。ときには鬱陶しがられることもしばしばで、我が子でも向き合うのが大変だと感じることがあります。ましてや学校の教師という立場で子ども達と向き合い、信頼関係を築くのは簡単なことではないでしょう。心折れそうな瞬間はたくさんあったのでは、と想像します。
先生のお話の中の「聴く⇒耳+目+心」という言葉はとても印象的でした。学校だけでなく、家庭、さらにはあらゆるところで活かせる有意義なお話をありがとうございました。」

・「澤田先生の講演会、とても引き込まれました。我が家の子はまだ皆小学生ですが、上の子は再来年中学生になります。未来の我が家を想像しながら聞かせていただきましたが、先生の講演会で一貫していたのは「話を聴く」。私自身フルタイムに近い仕事に追われている為、子ども達に「ちょっと待ってね」「後で聞くね」「話すのは今じゃない」など…自分の都合で聴けていません。でも、先生のお話から、子どもでも大人でも話を「聴く」ということで、いくらでもやり直せることを学びました。そして、道具もお金も使わず「話を聴いて真剣に向き合う」ことをしていなかったことに反省もしました。まだまだ間に合う。先生の講演会を機に、子ども達とできる範囲で沢山話そうと思います。普段ではなかなか知り得ない内容の貴重なお話をありがとうございました。」

〜所感〜
講師による中学校生徒教育の現場経験を踏まえたご講演は、驚きとショックと感動満載の内容でした。このことは、参加者が異口同音に「参加してよかった」「聴きたかった内容だった」「是非もう一度聴きたい」「感動の場面が多く何度も涙があふれた」「若い年代にも聴いてほしいと思う内容だった」という感想を述べられていたことからも判ります。

今回の講演後には「左京北地区更生保護女性会」及び「法務省人権擁護委員会京都協議会」からの講演依頼がありました。できることならば、来年度の左京区公開講演会或いは京都市保護司会連合会の特別研修の講師としても是非依頼していただきたいと思っています。

【参加保護司】(13名 あいうえお順)
伊藤恵子 大西繁雄 隠塚功 川見善孝 久保優佳 佐藤恭子 鈴木美智子 髙橋秀紀 千葉明 中林五月 堀内寛昭 村上ますみ

【スタッフ保護司】(北白川地域以外)
川見善孝(浄楽・錦林東山) 久保優佳(北部) 鈴木美智子(吉田・聖護院)
村上ますみ(葵・下鴨) 中林五月(新洞)

【参加者】
左京北地区更生保護女性会5名・下鴨少年補導委員会北白川支部3名・
下鴨防犯推進委員北白川支部2名・北白川小学校PTA本部4名・北白川女性会3名・
教職関係者3名・大学生2名・地域一般8名

参加者総計43名

文責:堀内寛昭
写真:川見善孝